ジャーナリストの大谷昭宏さんと対談
「京都民報」9月14日号からの転載です。
日本共産党のこくた恵二衆院議員・国会対策委員長とジャーナリストの大谷昭宏さんが対談しました。
大谷 お久しぶりです。 こくた ごぶさたしていました。今年3月21日のテレビ朝日「スーパーモーニング」でご一緒して以来ですね。 大谷 そうそう、イラク戦争が始まった翌日でした。連続して「朝まで生テレビ」でも一緒で。 こくた 実は私、その直後に入院、手術、療養と少し休んでいたこともあって、大谷さんとはお会いする機会がなかったんです。 大谷 それは知りませんでした。国会で活躍されていたので、気がつかなかったぐらいです(笑い)。 こくた あの時のスーパーモーニングで、大谷さんが「人道的復興というけれども、人の命は復興できない」とおっしゃったことに感動しました。当時の戦争に至る過程での警告と問題提起が、いかに鋭かったかが実証されています。 大谷 こくたさんもそうでした。お互いに一貫した立場ですね。 こくた 今、マスメディアでは自民党総裁選、民主党と自由党の合併問題を大きく取り上げていますが、秋の政局の中心は、国民の側から政治を変えよう、自民党政治を追い込むという国民的大運動を起こすことだと思います。 大谷 そう、政治を変えたいという国民の意志は強いと思います。その選択が混迷しているというのが現状でしょう。今年は連立政権になって10年ですが、その10年間を見てもね。 こくた 10年前に、38年にわたった自民党の単独政権が倒れ、分裂した自民党の一部など、「非自民」の8会派が細川内閣を発足させました。「非自民」の連立からその後、自民・社会・さきがけの連立へ、そして自自、自自公、自公保、自公保新と続いて…。読売新聞の6月23日付のアンケートでは、この10年振り返って政治が良くなったと答えた人は9・2%しかありませんでした。 大谷 10年の検証はすでに国民はしたということなんですよね。国民の9割以上が10年のスパンの中では良くなっていないじゃないか、と。一方でこういう議論もあります。「政治は一気に変わるということはない。少しずつ変わっていけばいい」というものですが…。 こくた 本当にちょっとでも変わったのか、我々にはそれを検証する責任があると思います。先ほどのアンケートで、この10年間の評価できないことのトップは、政治と金をめぐる事件が相次いだ、というもので、こう答えた人が66・8%です。国民は「変わっていない」としっかり今の現実政治に対する評価をしているんです。 大谷 少しずつ変わったか、といえば変わっていない。
結局は自共対決の構図
こくた 当時も今もいわれていることですが、「政権交代が実現すれば政治は変わる」というのはどうか。「非自民」の政権は、深夜の記者会見で消費税の増税を企て、「政治改革」の名で自民党の長年の野望だった小選挙区制を強行した。自民党政権がやれなかったコメの輸入自由化も社会党の首相がゴリ押ししました。そして、消費税5%も社会党の首相の時に法案を強行しました。 大谷 自民党はしたたかなんですよ。いざ自分が崩れそうになったら、社会党まで抱き込んで政権を維持する。当時、朝日新聞が書きましたが、まるで柿が熟して落ちてくるのを待つがごとく(笑い)、村山さんの後に橋本さんを引っ張り出しました。社会党がこけて落ちていくのを待ってね。 こくた これらの政権に共通していることは、政治の基本において自民党政治を継承したことです。「非自民」8会派は国の基本政策で合意し、自民党と連立した社会党の党首は政権につくと日米安保体制の堅持を宣言して自民党政治を継承しました。「政権交代が実現すれば政治が変わる」のではなく、自民党政治の継承では政治は変わらない、というのが教訓だったと思います。 大谷 そう。例えば、この間いくつ政党ができたのか。そしてどんどん名前を変えていく。数えられませんよ(笑い)。変わってないのは共産党と自民党だけでしょ、たった10年間でも。結局は自共対決の構図なんだということなんです。
穀田さんは野党共闘の要
大谷 連立政権10年を受けて、国民の政治を変えたいという思い、小泉支持率と自民党支持率の大きな開きのねじれが大きな特徴だと思います。小泉さんは自民党のばりばりの真ん中にいて、有事法制も通し、イラク特措法も通し、最右翼をいっているんです。それで選挙を前にして憲法「改正」を振りかざす。彼の正体は見えているんだが、パフォーマンスというかワンフレーズポリティカルで国民の選択を惑わそうというやり方です。 こくた ワンフレーズポリティカルと言われましたが、小泉政治は長年自民党が懸案としてきた問題を一気に押し進めたわけです。国会では、アフガン報復戦争協力や有事法制、イラク自衛隊派兵法でも「武力行使はしない」、「戦闘地域に行かない」と、小泉首相はこれだけなんです。 大谷 そして、アメリカ軍が全域が戦闘地域だと認めているのに、「戦闘地域に行かない」と言い張る。最後には小泉首相は「戦闘地域なんて分かるわけないじゃないか」と言い出す(笑い)。 こくた 無責任極まりないですよ。 大谷 国会での共産党、こくたさんの役割は大きかったですね。 こくた 日本共産党の国会議員団は、自民党と対決し、野党の共同で現実政治を動かして国民の利益を守り抜く、これが値打ちだと自負しています。 大谷 有事法制に賛成した民主党が、イラク特措法に反対することになったのは大きな変化でした。 こくた 民主党も含め全野党がイラク特措法案に反対する上で、日本共産党の果たした役割は重要でした。「野党の共同の中で、3党が反対しているのだから、民主党内が賛成、反対の方針が決まらないのであれば、少なくとも慎重審議でまとまろうではないか。十分な審議をすることがあなた方の態度を決める上でも決定的だ」と主張しました。日本共産党推薦の参考人がいかに「国際法違反」かの公述を行いました。その後、民主党の方々は「国際法違反」の論陣を張りました。日本共産党が提唱した道筋と国民の運動の高まりを受け、民主党が態度を変更したわけです。 大谷 なるほど。こくたさんは国会対策委員長としてがんばった。 こくた 健保3割負担の問題でもしかりです。昨年の11月から、何回も国対委員長、政策責任者会議を重ね、最後まで野党の共同を追求しました。医療制度や社会保障制度について全く水と油のように違う民主党と「この経済状態で国民に負担増を押しつけるわけにはいかない」という一致点を生み出しました。それで野党4党が共同で健保3割負担増凍結法案を提出したんです。 大谷 自民党と対決するには野党の共同、共闘が大事です。その点で、こくたさんはいわば、野党共闘の要(かなめ)役ですね。それからがんばったと思うのは、借り換え融資制度の実現のことです。共産党が提案・提唱して平沼経済産業大臣が「いいことを教えてもらった」と言ったわけでしょう。もっと一般の人に分かりやすい言い方、例えば「中小企業の借金を安くする制度」とか言ってほしい。これは注文です(笑い)。 こくた ありがとうございます。早速、研究します(笑い)。一致点を生み出し、共同することは今後、政権を担うことを展望する上で、大きな経験になると思います。ところで、要(かなめ)といえば、少年・少女事件、教育の問題で、大谷さんの発言は非常に注目されていますね。 大谷 私の少年・少女事件をめぐる発言に、若者からいろんなメールが来るんです。「大谷さんたちは、そういう事件の中で見ているかもしれないけど、大多数の若者は恋に悩み、進路に悩み、将来に不安を抱きながら懸命に生きている。そういうところに目を向けてください」。こういうメールが1番多いんですよ。 こくた 今の現実に苦悩し、生き方を模索し、若者は真剣に考えているんですね。心を打たれます。 大谷 私たちは突出したところで語らなければいけないのですが、そういう時に、自分たちの姿を見てほしいということが反映される社会じゃないといけない。それから今の政治、政党のどこがそれにこたえてくれるのか、示すことが必要だと思います。 こくた 子どもたちをめぐる問題では、命の尊さを中心に家庭、学校、地域、大人の社会が力を合わせて解決にのりだしていくことが求められますね。若者の問題では、夢、将来像が持てないという極端な事態が生まれています。最初の関門は就職の問題です。 大谷 そうですね。 こくた 政治の責任がまさに問われていると思うんです。日本共産党は1日、「安定した雇用を増やし、雇用危機を打開するための4つの緊急提案」を発表しました。緊急提案では、柱の1つに「未来をになう若者に仕事を−政府と大企業の責任で若者の雇用拡大を」とズバリ主張。フリーターの労働条件改善と正社員としての採用拡大のため、同じ会社で派遣労働を1年間した場合は、正社員にすることを義務付ける法改正などを求めているんです。 大谷 それはいい。フリーターという言葉を政府も初めて使い始めました。若者にしてみたら、好きでフリーターをしているわけじゃない。1番利用しているのは大企業なんです。いかに首を切りやすいかと探した結果がフリーターなんです。若者は安定した雇用を求めているんですから。 こくた 未来を担う若者に希望のもてる社会をつくらねばと思います。
憲法―理想の旗を高々と
大谷 この間、注目していることがあります。恋愛小説が専門で、圧倒的に若い人に人気のある直木賞作家の村山由佳さんが、『おいしいコーヒーのいれ方』シリーズのあとがきで、「なぜ私みたいな戦争を知らない人間が戦争にこだわっているのか」という話を連綿と書いているんです。そして、「若い人に伝えたい、憲法を誇りに思いたい」と。いいあとがきです。今度の選挙で問うべき大事なことです。 こくた 憲法で掲げた理想を高々と掲げて、希求する。その理想に近づこうというのが、私どもの綱領改定案なんです。理想の旗を掲げつつ、たたかう。アメリカいいなり政治やめよう、ルールなき資本主義を改める。 大谷 こくたさんたち若い政治家がどれだけ希望を掲げるかです。政治は最終的には、分かりやすい言葉で夢を語ったり、希望を語ったりするもの。そしてどこに夢を託せるかです。期待しています。 こくた 現職の総理が改憲を公言する危険な動きです。憲法を掲げてたたかいます。憲法という理想の旗を変えていいのか、と問うてがんばります。
大谷昭宏(おおたに・あきひろ)さん 1945年生まれ。早稲田大学政経学部卒。読売新聞大阪本社入社、徳島支局勤務を経て、70年から大阪本社社会部勤務。87年、読売新聞社を退社し、故・黒田清氏とともに黒田ジャーナル設立。00年、黒田氏没後は事務所を設け、新たなジャーナリズム活動を展開。
穀田恵二(こくた・けいじ)さん 1947年生まれ。立命館大学1部文学部卒。学校法人立命館職員、党北地区委員会勤務を経て、87年から京都市議(北区)。93年、衆院選(旧京都1区)で初当選し、現在、衆院議員3期。衆院決算行政監視委員、党常任幹部会委員・国会対策委員長。
(Update : 2003/09/29)
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