伝統への畏敬

こくた恵二

京の和菓子に味せられて

 和菓子に凝りだしている。そもそも私が和菓子好きになったのは1986年府議会議員補欠選挙に立候補した前年の夏、お寺の住職のお母さんと親しくなったことからである。
 宣伝活動休憩の格好の隠れ場所。疲れを癒すのにお抹茶とお菓子を頂くようになったのが直接のきっかけ。
 きんとん、おはぎ、豆餠、松風(まつかぜ)、うばたま、洲濱(すはま)、羊羹(ようかん)、饅頭(まんじゅう)に麩焼煎餠(ふやきせんべい)などなど。季節の定番、桜餠、柏餠、水無月(みなづき)は言うまでもない。以来「寺ばあさん」と一家で親しくお付き合いしている。
 昴じて『京都のおいしい和菓子』という本などを入手し、季節季節、お店ごとの和菓子を楽しんでいる。
祇園祭宵山の日だけの“行者餠(ぎょうじゃもち)”、山椒味噌はえも言われぬ味であった。
 お彼岸とおはぎ、仲秋の名月は観月会(かんげつえ)と月見団子、と楽しみは続く。
 先の本によると、古都の秋には「しっとりした水分量を保って、繊細高雅な風合い」と松屋常磐(まつやときわ)の“きんとん”を推奨している。川端道喜さんも『和菓子の京都』で取り上げていた。味わってみることにした。その造作の見事さと味わいは、ボキャブラリーの少ない私には表せないと、一言記すのが精いっぱいだ。
 作家向田邦子さんはこの老舗の“味噌松風”が大好物で、気前のいい彼女がこれだけは妹の和子さんにさえ少ししかお裾分けしなかったとか。
 特別甘党だったわけではないが、性格的に甘ちゃんで、旅館で育ち、常に和菓子が身の回りにあったことが遠因であろう。

(「しんぶん赤旗」1998年9月10日付より)