伝統への畏敬

こくた恵二

暮らしの中に着物を

 深まる京の秋、紅葉も美しいが、伝統・地場産業もこの機会に親しんでは。
 今回は西陣の「織成館(おりなすかん)」(上京区浄福寺通上立売上ル大黒町)をご案内しよう。
 必見の催物は12月13日までの「女将(おかみ)さんのきもの展」である。案内状には「老舗の料亭や旅館の女将さんたちは、日本文化のしつらえやもてなしの専門家…『人さまにお見せするようなことは…』とおっしゃるところを、ご無理をお願いし、“ご自分のきもの”“思い出のきもの”をご出展いただいた」と企画の趣旨と苦労が記されている。
 だから豪華なものばかりではない。「駆け出しの頃にバーゲンで買うて以来、仕事でずっと着たものだけに、心のお宝として愛着が」。出展された女将の日常生活や仕事に思いを馳(は)せ、支えてきたでろう着物の一枚一枚にじっと見入る。
 今日、着物文化は残念ながら一般人の私たちには晴れ着文化としての傾向が強い。生活のなかで、生きた仕事着・日常着として着物を身につけているのは、女将などの世界にしか残っていない。
 大量消費の対極にあった、代々伝わっていく着物。見直しされてしかるべき着る文化。職人の手仕事としてのつくる文化も残さねばならない。この企画が日常着としての着物文化の底辺を拡大する契機になってほしいと願う。みんなが“心の宝”を持てるように。
 手織りのミュージアム「織成館」自身が、古い町家・西陣の機屋建ちとしてもお薦めの建造物である。

(「しんぶん赤旗」1998年11月26日付より)