西陣織職人
上京民商会員(室町支部)
廣岡百合子さん
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■西陣織の特徴は「分業」
西陣織の特徴はなんと言ってもその工程が分業で出来上がるところです。完成までに20を超えるプロセスがあり、それぞれの工程が専門家によって分業化されています。
絵柄の元になる紋様を作るのが「図案家」さん。その紋様を「紋屋さん」と呼んでいる意匠紋紙業者が機械織の織機に伝える図面にします。昔は「紋紙」という穴の開いた紙(大型コンピューターのパンチカードのようなもの)でしたが今はフロッピーが主流です。そして糸を作る「撚糸業」。糸を染める「糸染業」。出来上がった糸を織機にセットできるように整えるのが「整経業」。この糸はタテ糸とヨコ糸でそれぞれ別の工程が必要でそれぞれ専門の業者があります。糸を織機にセットする「綜絖(そうこう)業」、そして実際に織機にヨコ糸を通していくのが私達のような織職人というわけです。
それぞれの工程のまとめ役になって、問屋さんに出来上がった商品を売ってお金にするのが「織屋さん」で、私達職人は「織屋さん」から仕事をもらうことで工賃をもらうしかありません。ですから自分のつくりたいものを自分の裁量で自由につくることは難しいのです。まあ仕事の仕方という点では雇われ仕事のサラリーマンに似ているかもしれません。しかしながら、仕事をもらえなければ給料はもらえない「織屋さん」が不渡りをくらえば「工賃の支払い2ヵ月ほど待って」なんてこともざらにある。サラリーマンと自営業の悪い部分だけをあわせたような、そんな仕事とも言えます。
■「織額」は仕事起こしプロジェクト
だから景気の良い時は、決して高くない工賃で厳しい納期に追われることになります。しかしやっぱりつらいのは不況で仕事が来ないことです。仕事がなければ収入がなくなるんですから。
それで、西陣の職人が自らの力で何とかしようということで、不況の中での仕事作りプロジェクトとしてはじめたのが「織額」です。
民商をはじめとする私たちの長年の要求が実って、京都府の2001年6月補正予算で「京の伝統工芸品教育活用推進事業」として国の雇用創出事業を活用して1億円の予算がつけられました。事業の趣旨は「児童生徒に本物の伝統工芸品に触れる機会を提供することで、児童生徒の職に対する理解や、文化や伝統を尊重する心や態度の育成を図るとともに、長引く不況の影響により厳しい雇用・経済情勢にある京の伝統産業職人さんの仕事づくりに資する」とうたわれていて、会員どうしが技術を研さんする絶好の機会になりました。
この事業は今年度で終了になるので、今後この「織額」の技術を生かした作品をどうやって仕事作りに結びつけるか、新しい課題ですね。
■穀田さんに寄贈した「黄檗山萬福寺の開版」
今回、穀田さんに寄贈した「黄檗山萬福寺の開版」ですが、最初にこの絵柄をもらったときに「すばらしい絵柄だ、しかし、この重ねられた歴史を表すような深みのある『色合い』をどうやって作品に再現させたらいいのか」と考えました。特にこの「ホコリ」の色ですね。ただ単に掃除をサボっているだけじゃない(笑)。この「ホコリの色合い」をぜひとも再現させたかった。実際に黄檗山萬福寺にも足を運んで、住職さんにもお会いしてお話をする機会がもてました。
紋屋さんも同じく苦労されたようで、紋紙にあたるフロッピーが出来上がるのに3ヵ月かかりました。
■手作りだからつくることができた
これは企業秘密ですけど(笑)ヨコ糸を通すときに「紋屋さん」の指示通りの色を織るのではなくて、2色の糸を寄り合わせて狙った色を出すと同時に色合いに「深み」を持たせる工夫をしているんです。
作品が出来上がったときの喜びはそれはもう感動的でした。出来上がった瞬間に「これはイケる」と感じたんです。そうしたら「伝統産業の日」イン西陣 の催しで、優秀賞(京都商工会議所会頭賞)を受賞することができました。穀田さんにも高く評価していただきまして大変光栄に思います。
同じ紋紙からつくった作品のうち、一枚は東宇治中学校に提供されました。2枚目が優秀賞を受賞した作品で、本当は西陣織工業組合に寄贈されるべきところを特別な計らいで返却していただいて、黄檗山萬福寺に寄贈しました。そして穀田さんに贈ったのが3枚目です、3枚目といってもつくるのに慣れてきた段階で、糸の色にも新たな工夫を加えたので実質的に1枚目のような、この世に1枚しかない作品に仕上げました、受賞作品よりもさらに良い仕上がりの自信作です(笑い)。
■困難な後継者づくり
私たち西陣織の職人の生活実態はやはり厳しいものがあります。みんな恥ずかしいのかあまり語りませんが、せいぜいつきに5万から8万ぐらいの収入というのが多くの織職人の実態ではないでしょうか、年金をもらっている人ならやっと人並みの収入が得られるという水準です。若い人がやりたいと思ってもとてもじゃないけど食って行けない。
京都市の後継者育成資金もたった15人の枠で、しかもすべての伝統産業が対象です。一人当たり年間40万でしかも勉強のために本を買うなど実費を支給すると言う厳しい条件にもかかわらず、西陣織は工程が多いので15人の枠に入ることすら難しい。
織職人だけではありません、機械をつくる会社、道具を作る職人、それぞれ後継者不足で、中にはみんな廃業してしまってその道具をつくる人がいなくなってしまったような道具もあります。プラスチックの代用品でイマイチ使い勝手が悪くなってしまったものなどもあって、これは非常に残念なことです。西陣織という産業そのものの『未来』が危機に瀕していると感じます。
■穀田さんに期待します
穀田さんには、国会でも伝統産業の問題をたびたびとりあげていただいて、京都の伝統産業を守る立場でほんとによくがんばってくださるので、感謝しています。
この間も、新聞記事(しんぶん赤旗11月16日付)に書いておられたことにとても感激しました『京都府の伝統産業への予算は2億円程度、一方企業誘致には一社に10倍の金をつぎ込む逆立ちぶり。この府政を変えたいの思いが託されたのである。大きな額の重さだけではない、私たちの胸にズシリと響いた。』と書いてあった、私たちの思いにピッタリと寄添っていただいていると感じました。
これからも、穀田さんの活躍を期待しています。
[2005年11月]
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