京足袋職人
京都市伝統工芸連絡懇話会会員
植田勝也さん
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■足の単位は「文(もん)」で測る
足袋の歴史は奈良時代(710〜793年)足袋の前身となる「襪(しとうず)」という履物にはじまります。礼服・束帯着用のときに履き、礼服用は錦(錦は二色以上)と、当時の服制に規定されていました。指の部分は分かれず、小鉤(こはぜ)はなくひもで結ぶのが特徴です。
公家装束の「しとうず」が白絹製であったのに対して、中世の武士社会では皮製を履いていました。
江戸時代の寛永年間(1624〜44)に、足袋の量産をするために足袋職人が生み出した「尺度」と「物差し」があらわれました。基準は当時の寛永通宝(10円玉より大きく500円玉よりちょっと小さいぐらい)で、直径2.4cm「一文(もん)」が、足を測る専門の単位「文」になったわけです。
私も現在でも「文尺」を使って仕事をしています。これはもう製造されていないので大変貴重なものです。
■35軒あった「京足袋」が、今では1軒だけ
足袋を作る型にも、東京(関東)型、京(関西)型の二つに大きく分かれています。
関東は粋に見えるのが身上とされ、足が細く格好良く見えるようにわずかな表地を底に回し、すっきりした足元になるように作られます
関西では丈夫であることを重んじ、傷みにくいよう、表地を底に回しません。
私も今でこそ「京足袋」と名乗ってますが、正式に京都の足袋というのがこういう「型」だと言う決まりは無いんです、店ごとに特徴がありましてね。もともと先代の父は大阪の出ですし、京都のほかの足袋職人さんと交流があったわけではなかったのです。ただ、京都の中で型紙から縫製まで全部手仕事でつくる「足袋職人」が私の店以外無くなってしまった(戦前はあつらえ専門だけでも7軒、既製品も含めれば35軒もあったのに)。それで、京都市の職員さんが「京足袋と名のったらどうですか」とアドバイスいただきまして、それ以来「京足袋」と名のっています。
クレームをつけてくる同業者もいませんし―これは残念なことでもありますが。
■誂え(あつらえ)専門で、出来上がるまでに4ヵ月
足袋の作り方ですけれども、あつらえ専門の足袋屋ということで、初めての方は必ず来店していただいて、足の寸法を測ります。足首の周りや親指の太さなど、片足に付き10ヵ所、両足で20ヵ所を測りまして、それをもとに型紙を作ります。
型紙から布を「裁断」したり、縫製も縫う部分によってミシンがちがいますから、一日に付き一つの工程を、30足ぐらいまとめて作業します。すべての作業を私一人でやりますから、注文を受けてから納品するまで今は4ヵ月の期間を頂いています。
最低でも6足から注文を受けますが、一足5000円ですから3万円、それでも手間賃としては自分ひとりが食っていくのがやっとですね。
(こくた・註:上の写真は私のつれ合い「こくたせいこ」の型紙です)
■「京」の伝統を足元から支えて
とくに「型紙」を作るのがものすごく時間がかかるのです、多くて一日5〜6枚、一枚作るのに半日かかることもあります。ですから正直言いますと、一度作った型紙で追加の注文をいただいた時にやっと黒字になるぐらいですね。手間賃を考えると一回きりでは赤字です。
それでも、作った型紙をもとに追加で注文をいただけるのは2割以下ぐらいですね。普段からあれだけ着物をよく着ておられる「こくたせいこさん」でも、5年前に初めて注文をいただいて、2回目が2年前、3回目がつい最近ですから(これだけ頻繁に注文をいただけるのはごくまれなんです)、普段あまり着物を着ない人は、一度注文して作ったらそれこそ一生使える(笑)。
おかげでご覧の通り、押入れには型紙が一杯で溢れ返っております。それでも何年もたってから追加で注文が来ることも可能性としてはありますから捨てられないんです。まあこの「型紙」が、この店にとっての最大の財産でもあります。え?「何枚あるか?」って?、、、さ〜数えたこと無いですしわからしまへん(笑)。
■困難な後継者づくり
最近は注文される数がものすごく減っていて、とくに着物を着る商売をしている人たちが「既製品」に流れてしまっています。安くて便利な方向に走る気持ちはわかりますが、何十万〜何百万円の高価な着物を着ていながら、足袋はナイロン製を履いていたりするとガックリ来ます。昔は既製品を履いていると「その足袋はあなたの足にあって無いですよ」と注意してくれる、「粋」な旦那さんがいはったんですけど、今は全然。
サラリーマンをやっている息子が興味を持ってくれているのですが、今は必死で止めている状態です「絶対辞めるな、この仕事では二人分の稼ぎは出ないから」ってね。私が、足袋を作るのをやめればこの型紙も全部無駄になりますから、もったいない話なんですが、、、
ミシンも一番古いものは約100年前にドイツから輸入されたものにモーターをとりつけて使っています。これは古いものへのこだわりとかそう言うんじゃ全然ないんですよ、業務用の新しいミシンはそれこそ何十万〜何百万円ってかかりますし、それだけの設備投資をしても回収できませんから。それで古い機械を修理しながらだましだまし使っているのが現実。ただ、昔の機械は随分丈夫だなあとは感じています。
■こくたさんに期待します
ついこのあいだ、ありがたいことに(平成17年度の伝統的工芸品産業)功労者褒章を受章させていただきまして、その時にすぐにこくたさんからお祝いの直筆のお手紙が届きまして喜んでたんです。そうしたら翌日には家まで訪ねて来ていただいて本当に驚きました
。
こくたさんは、京都の伝統産業を本当に大事にしようと頑張っておられる政治家なんだなぁと信頼しております。
これからも国会で活躍していただけるものと期待しております。
誂足袋専門「植田貞之助商店」 電話番号075−313−1761(FAX兼用)
*初めてご注文をされる場合は、必ず来店いただいて足の寸法を測らなくてはいけません。詳しくはお電話にてお問い合わせください。
[2006年2月]
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