国会会議録

【第162通常国会】

衆議院・国土交通委員会
(2005年7月8日)

 中小運送事業者に対する支援に限定してきた「中小企業流通業務効率化法」を廃止し、中小支援の垣根を取っ払い、大手物流事業者にも税制、資金調達、開発手続きの簡素化など支援措置を拡充しようとする、市場競争を優先するとしても公平・公正な取引を守ることなくして、経済秩序は維持できない、として、反対の態度をとった。

○橘委員長 穀田恵二君。

○穀田委員 本法案は、これまで中小運送事業者に対する支援に限定してきた中小企業流通業務効率化法を廃止し、中小支援の垣根を取っ払って、大手物流事業者にも税制、資金調達、開発手続の簡素化など支援措置を拡充しようとするものです。
 そこで、これまで中小運送事業者に対する支援に限定してきた理由は何か、まずお答えください。

○春田政府参考人 お答え申し上げます。
 荷主の物流ニーズに対応いたしまして、輸送の関係も含めた物流の効率化を進めるということに当たりましては、大企業に比べて経営基盤が脆弱であり、また資金調達能力という面でも乏しい中小企業につきましては、共同化の取り組みということが有効であるということで、中小企業流通業務効率化促進法におきまして、支援対象を中小企業組合の形式によるものを対象にいたしまして支援を行うということになっているものというふうに理解をしております。
 中小企業をめぐるこのような状況は引き続き基本的にはあるわけでございますけれども、この法案におきましては、従来の支援措置を継続するとともに、いわゆる中小企業組合形式によらない中小企業の連携についても支援対象に含めるというようなことで、中小企業に対する支援措置を拡充するという内容になっているものでございます。

○穀田委員 中小企業は大企業に比べて資金調達力が脆弱だ、効率化のために投資してもそれに見合う物資の流通量を確保できない、だから中小企業が共同して流通業務の効率化に取り組むということで対応策が決められた、これが九二年に制定した法律の趣旨説明でありました。だから、この大変な中小企業を支援することによって振興を図ろうというのが大義だったわけですね。
 そこで、今回の法案は、今お話ありましたけれども、後半の方も言っているわけですけれども、支援する対象を中小企業に限定せずに、大手も含めて支援しようという内容だということは明らかです。具体的な対象はどういった事業者を想定しているのか。大手運送事業者のほか、荷主となる大手製造事業者や大手小売事業者が出資する子会社なども含まれるのか。例えば、企業の流通機能全般を一括して請け負うアウトソーシングサービス事業も含まれるのか。この点について簡潔にお答えください。

○春田政府参考人 お答え申し上げます。
 この法律におきましては、物流の総合的なあるいは効率的な展開をするということを施設を通じて行う事業者に対しまして支援措置を講ずるということでございまして、中小企業については、先ほど、中小企業に対しての支援措置というものを講じるということでございますけれども、この法律全体としては、中小企業に限定しない形で支援措置を書かせていただいております。
 そういう意味では、今御指摘がございましたような大手の事業者であるとか、あるいは荷主が出資する物流子会社というようなたぐいのものにつきましても、認定の対象になり得るものと考えております。

○穀田委員 だとすると、中小企業と違って資金調達力はある、一定の競争力もある、そういう大手企業が行う効率化を国が支援するということになります。
 もともと、先ほども、また参議院の審議でもありましたように、企業にとっての経営の効率化というのは、企業自身がその力で創意工夫を凝らしてやるべきだというはずだと思うんですね。それをわざわざ、さっきお話しした中小企業流通業務効率化法を廃止して、それでなぜそういうところを支援しなくちゃならぬのか。そのことを端的に短くお答えください。

○春田政府参考人 お答え申し上げます。
 物流の総合化、効率化の取り組みを推進するためには、中核となる物流拠点施設の整備が必要になるわけでございます。これを整備するためには多額の投資を必要とする反面、投資をした資金というものを回収するという期間も長いものとなります。民間事業者がこういった取り組みをしていくことを自主的に取り組むということだけでこういう事柄が進むかどうかということにつきますと、なかなか円滑に進まないという問題があります。
 他方、総合化、効率化の取り組みということは、活力ある経済活動あるいは豊かな国民生活の維持にとって必要不可欠な取り組みでございます。特に今日においては、東アジア諸国の経済が大きく発展していく中で、我が国産業の空洞化というような事態を回避するためにも緊急かつ重要な課題であると考えております。
 そういった意味で、従来の倉庫用建物に対する……

○橘委員長 簡潔に願います。

○春田政府参考人 はい。税制特例等、これを大幅に見直しをいたしまして、重点的に総合化、効率化を図るものにむしろ絞り込みをいたしまして再構成したというのがいわゆる一般的な支援措置でございます。
 一方、中小企業に対しましては、先ほど来申し上げておりますような資金面等の支援というものを手厚く整備しているものでございます。

○穀田委員 この間、きょうの議論でも多くの発言者が疑問符を投げかけたのはここにあるんですよね。結局、そういう資金力もあるし力もあるところ、なぜそこを支援しなくちゃならぬのかということなんですよ。市場原理、市場原理、また、総理の好きな言葉でいけば、民間でできるものは民間に、こう言っていて、それが金がかかる、円滑に進まない。そんなことはないですよ。ちゃんとやればできるわけでして、結局のところ、要は至れり尽くせりで、官が後押ししましょう、大手の企業には手厚く支援しましょうということがあからさまに見えるということを指摘しておきたいと思うんです。
 そこで、これが、懸念があるから各党は中小業者に対してどうなのかという質問をしているんですよね。中小運送業者にとってはどういう事態をもたらすか。中小企業の場合、従来は中小企業組合などに限られていた支援対象が個々の企業でも対象になるなど、先ほどお話があったように、一定、制度が拡充される、これはありました。しかし、これは、今回の法案をつくらなくたって、逆に言えば、中小企業流通業務効率化法を改正すればできる話なんです。支援する対象を大手に広げることで、限られた支援措置が中小企業まで回ってこないという心配が生まれるから、みんな危惧の念を抱いて質問しているわけですよ。
 それだけじゃ済まないんですね。先ほど質問した中心は、大手の製造業者や大手小売業の子会社、3PLというアウトソーシングサービス事業が進める効率化の中身が問題なんですね。
 IT辞典を見ますと、こう書いているんですね。「物流業者に業務を委託するのとは違い、3PLは「荷主の物流部門」として振舞うため、複数の物流業者から最も荷主の利益にかなう業者を選択したり、荷主側の要望を物流業者と交渉したりといったことが可能となる。」やはりITをやって調べている方はよくつかんでいて、このことの今度の法律というのはどうなのか、3PLというのは何をもたらすかということをすぱんと言っているわけですね。
 ここにあるように、3PL事業者は荷主の物流部門として振る舞い、荷主の利益にかなう業者を選択したりすることになる。だから、荷主の意向に沿って、低運賃を競い合わせ、コスト削減を図ることが最大の仕事になっちゃうぞと。
 つまり、中小運送業者やそこで働く労働者にすれば、安い運賃や時間限定配送など、過酷な条件を押しつけられる事態が今以上に厳しくなることは容易に予想できます。効率化を進めれば進めるほど、中小業者と運送労働者にとっては過酷な取引条件が押しつけられることになる、そういう事態を生む心配はないのですか。お答えください。

○春田政府参考人 お答え申し上げます。
 物流の効率化につきましては、活力ある経済活動あるいは豊かな国民生活の維持にとりまして必要不可欠な取り組みであると考えております。産業の空洞化の回避を図るためにも重要だということでございます。
 物流の効率化を進めることによりまして、荷主企業が物流活動というものをアウトソーシングするというようなことで物流事業者がその受け皿となる、結果、自家用トラックから営業用トラックへの転換が行われるというようなことにつきましては、トラック事業者のビジネス機会の拡大というようにつながる面もあるものと考えております。
 また、中小企業におきましても、みずからの創意工夫、他の物流事業者との連携、こういったものを通じまして、ビジネス機会を拡大するということは十分可能であると考えております。本法案は、こうした中小企業の各種取り組みを支援するための措置を整備するものでございます。

○穀田委員 効率化が必ずしも空洞化などの対処になるというふうには思えない。私は、京都に住んでいますから、とりわけ伝統産業や芸術産品、そういうものの空洞化というのを恐れています。しかし、それは効率化でいけるなどということを言ってごらんなさい。だれもそんなこと言わへんわ。そういう問題だということを改めて言っておきたいし、活力というものは一体何かという問題も今後議論していきたいんですけれども、私は、そんなに時間はありませんからやめますが。
 そこで、トラック協会の調査資料などを見ると、コスト削減競争のもとで事業者は運賃を削られ、それを労働者の賃金引き下げ、長時間労働で補う、そういうことになります。したがって、荷主側が物流の効率化をすればするほど下請と労働者にしわ寄せされる実態があることは、これは否定できない事実だと思います。
 公正取引委員会に聞きたい。大手荷主がアウトソーシングして3PLを行う事業者について、この事業者が中小運送事業者に対して、運賃の減額、買いたたき等、不公正な取引を行った場合、二〇〇四年に改正された下請法が適用されるのかされないのか、お聞きします。

○舟橋政府参考人 御説明申し上げます。
 御指摘の件でございますけれども、下請法、それからもう一つ物流の特殊指定とございますけれども、いずれも資本金の要件というのがございまして、それを満たす限りにおきまして、大企業が3PLに委託を行う、そういった場合に、その下請法ないし物流の特殊指定が適用になる、こういう関係でございます。

○穀田委員 では、ついでに聞きます。
 昨年改正された下請法及び今お話あった荷主に対しての独禁法の特殊指定に関連して、運送業関係でこの一年の運用実績はどうなっているのか、また、対象が広がったことに伴って下請検査官等の人員体制は拡充されたのか、そのことについて事実関係をお聞きします。

○舟橋政府参考人 まず下請法、それから、先ほど申し上げましたけれども、物流の特殊指定の運用状況、運用実績でございます。
 下請法につきましては、平成十六年、昨年度でございますけれども、定期調査というのをやっておるわけでございます。下請の方からなかなかクレームとかが来ませんので、私どもの方から書面で定期的に調査する。その結果、運輸業者に対しまして、下請法に違反するおそれのある行為が認められた百七十一件につきまして改善等の措置、指導を行った。それから、もう一つの物流の特殊指定の方でございますけれども、こちらにつきましては、物流事業者二千社に対しまして書面調査を実施いたしておりますが、指導等に至る事案はなかったということでございます。
 今後とも、下請法それから物流の特殊指定につきましては、書面調査等を実施して違反行為が見つかった場合には厳正に対処したいと考えております。
 運用の体制でございますけれども、非常に簡単に御説明させていただきますと、下請法それから物流の特殊指定、これは昨年四月一日から施行になっているわけでございますけれども、その直前の時点でこの担当者は四十九名でございましたが、直近時点では十二名ふえて六十一名の体制で執行に当たっている、こういう状況でございます。

○穀田委員 今ありましたように、下請関係の検査官それから担当者、四十九名から六十一名、十二名増員している。中小企業庁でも、下請検査官は七人拡充されています。
 そこで、もう一つの点ですが、今、下請法違反事例については、警告等の実績、書面に基づいて調査して百七十一件あったと。ところが、荷主が行う不公正取引に関しては、特殊指定にされたけれどもこれまで警告した実績はない、これがはっきりした。これが非常に問題なんですね。だって、荷主による運賃引き下げ、買いたたきなど、委託を受けた運送事業者や労働者はまさに悲鳴を上げているわけです。これは、参議院の議論を通じても、今日の議論を通じても、そういった点が出されました。
 先ほども言いましたけれども、今回の法案で支援される3PL事業者というのは、荷主の物流部門として、荷主の立場に立ってコスト削減など効率化を進め、下請物流業者に無理を押しつける可能性がふえると思うんです。
 これは、「日本における3PLビジネスの育成に関する調査」ということで国土交通省が出しているんですけれども、そこの実態を見ますと、「市場構造・参入主体」と書いていますが、例えば商社の物流子会社、伊藤忠、住友、丸紅、三井物産、三菱商事、こういうふうに書いていますように、これは圧倒的にそういう人たちが参入をしているという事実があるし、それが今の現実です。
 したがって、私は、大臣にこの点を含めて最後にお聞きしたいんですね。
 運輸事業に関しては、結局のところ、JR西日本の事故だとか航空のトラブルなど安全問題で、私は国交省の管理監督のあり方が問われたと何度も質問しました。あわせて、今度のトラックなど貨物輸送分野での事故も多発している。それは、その背景に荷主の行き過ぎた運賃引き下げ、時間限定配送などの押しつけがあることも指摘をされているところです。そもそも、市場競争、市場原理といいましても、私は、公平公正な取引を守ることなくして経済秩序は維持できないと思っています。したがって、運送事業を所管する国交省が、この公正取引に関しても監視、監督する立場から一定の役割を担うべきだと考えるんです。
 国交省は、運送業が下請法さらには特殊指定の対象になって以後、検査官初め人員の拡大を行ったんでしょうか。そういった点を含めて、二つ、今言いました一定の役割を担うべきだということと、検査官を初めとしたこの部門での人員の点についてもお聞きしたいと思っています。考え方と、その二つ、お願いします。

○北側国務大臣 物流事業というのと、それから生産、流通等の荷主側というのは、私は、やはり経済を支える車の両輪だと思うんですね。だから、生産者側また流通者側にとっても、物流事業者の方々が健全に発展していくということは極めて大事なことで、私どもも、物流事業者の方々が健全に発展していけるような環境、条件というのをしっかり整備していくことは私どもの大事な仕事であると思っております。
 今は軽油価格も大変高騰しております。トラック事業者の方々は大変な環境下にあるというのも私は十分に承知をしているところでございます。荷主側の方々にもその辺のところはよく理解をしていただいて、きちんとそういうコストが反映できるような形にしていかないと、転嫁ができるような形にしていかないといけない。そうじゃないと、やはりトラック業者を初めとする物流事業の健全な発展というのはないというふうに私は思っておりまして、そういう意味で、経済界の方々に対しましても、今のこういう状況についてよく御理解をお願いしたいということは申し上げているつもりでございます。
 経団連の皆様に対しても、そういうトラック事業者の方々を初めとする物流事業者の方々の置かれている状況については申し上げているところでございます。

○穀田委員 考え方の中心は、やはり公正公平な取引を守るという、単に中小企業庁だとか公正取引委員会というふうな形じゃなくて、一番現実をつかんでいる国交省自身がきちんと関与していく必要があるということを私は申し上げたいと思っています。
 みずから所管する運送業界の公正な取引、今、そういう点について、実際は嘆いていないんですね、残念ながら。この間も参議院でも議論になりまして、そういう一連の流通問題についての、経産省でいいますと経産省、それで、こっちでいきますと、通達を出している、パンフレットを出している、こう言っているんですけれども、その点でのきちっとしたものが私は必要だと思います。
 最後に一言だけ。
 一生懸命環境問題について出しましたけれども、企業のCO2の排出を規制するものではないんですね、この法律は。参議院の議論でもあっていますように、規制をかける必要があるんじゃないかといったことに対しては、それは市場原理だと言っていることから明らかなように、それはそうなりません。
 確かに、十あるものを二つにやったら、それは減るのは当たり前なんですよ。そういう点ぐらいだということは言っておきたいと思っています。
 したがって、温暖化についても、なかなかこれは疑問だなということだけ提起して、質問とします。