国会会議録

【第164通常国会】

衆議院・予算委員会
(2006年1月26日)

 予算委員会で、小泉首相に対し『国民の安全を守る建築確認にまで競争原理を持ち込んだ“規制緩和万能路線”の政治は間違いだ』と追及。

○大島委員長 これにて松本君、馬淵君、原口君の質疑は終了いたしました。

 次に、穀田恵二君。

○穀田委員 日本共産党の穀田恵二です。

 きょうは総理に質問したいと思います。

 今回の耐震強度偽装事件の大もとに、九八年の建築基準法改正があります。日本共産党は反対しました。その理由を、建築士の独立性が確保されておらず、建築主や建設業者の圧力がまかり通る可能性があるということと、もう一つは、営利を追求することから競争が激しくなる、その結果、先ほども引用いただきましたけれども、安かろう悪かろうという検査にならないか、また、手抜き検査が横行しないかということを指摘したわけです。まさに、警告が、不幸にして的中しました。

 安全を担保すべき建築行政にまで規制緩和を持ち込んだことへの問題はないと考えるのか、総理にまずお聞きしたいと思います。

○小泉内閣総理大臣 私は、この事件の解明についてはこれから進んでいくと思いますし、なぜこのような偽装が見抜けなかったかという点についても、今後、再発防止の観点から、これは極めて重要な課題だと思っておりますが、民間に開放したことが今回の偽装をもたらしたということを一概に言うのは早いんじゃないか。

 やはり民間人だって、きちんと、うそをつかずに、法律を守ってやってもらわないといけないということは当然でありますし、これは公務員であろうと民間人であろうと、法律をきちんと守るということは大事である。我々の改革が、民間人に任せたらいいかげんにやってもいい、そういうふうにとられるというのは、これはいかがなものかな。そうではない。

 ですから、民間にこの検査を任せたことについて、今後、このような偽装をきちんと見抜くような体制というのをとることが必要ではないかなと思っております。

○穀田委員 それは極めて一般論だと思うんですね。

 もともとこの法律をなぜ改正したかということで、当時、目的は、阪神大震災の教訓に学んでということをわざわざ本会議で総理は答弁なさいました。その後でこうもおっしゃっています。中間検査、これをこの法律で導入した。また、完了検査の実施率も向上したことによって、問題はないんじゃないか、こういう論ですよね。しかし、私は、残念ながら総理は、事の、今回起こっている問題についての一番肝心なところがわかっていないんじゃないかと思っているんです。

 というのは、総理がおっしゃる、民間に任せたことは問題でないとか、こういうことも前進したとかいう話の中心のポイントは何かというと、結局、工事施工後の検査のところをずっと言っているにすぎないんですね、本会議における答弁というのはまさに。ところが、今回の場合は、作成された設計図どおりに施工されているかどうか、そういう問題を検査するものであって、設計図どおりやっていないというところで耐震性が全くないということがわかったわけですね。そうでしょう。だから、私は、まず、今回の事件における中心ポイントは何かということについての認識が不足していると言わざるを得ないと思います。

 そこで、今回の事件は、今私がお話ししたように、工事施工後の検査の問題とは違って、それ以前の設計段階の問題であるということ。つまり、構造計算書の改ざん、偽装が行われ、総理がおっしゃるところの、それを検査で見抜くことができなかったということが問題なんですね。

 私は、背景にある二つの問題を議論したいと思うんです。

 一つはコスト削減という問題です。

 この間の参考人質疑や証人喚問で、姉歯建築士や小嶋社長の証言から、コスト削減最優先、安全は二の次という実態が浮かび上がってきました。ヒューザーの小嶋社長は、経済設計のどこが悪い、こうまで発言しました。そして、姉歯建築士は、鉄筋量をもっと減らせ、坪単価を安くしろ、コストを下げろと圧力をかけられたと証言しているじゃありませんか。

 だが、問題はこの人たちだけなのかと思うんです。雑誌を持ってきました。日経アーキテクチュアという本です。これは建築士を対象にしたアンケートを行っていまして、五百六十七人が回答しています。これを見て、私、驚きました。今回の偽装事件を受けて、これまで、大小にかかわらず、確認申請図書の偽造、偽装をしたことがあるかという問いに対して、あると答えた方々は一二・七%もいるんです。八人に一人は、偽造、偽装したことがあると明確に答えています。さらに、法令に違反しても構わない旨の指示を建築主など関係者から受けたことがあるか。受けたことがあると答えた人が実に二六・三%もいる、四人に一人いる。まさに深刻な事態と言わなければなりません。つまり、コスト削減が繰り広げられる中で、安全性がないがしろにされるという事態が広範にある。

 総理は、偽装したのは姉歯氏一人のことだとお思いでしょうか。

○小泉内閣総理大臣 今のそのアンケート調査、議員が発表されましたけれども、それだけの人が偽装したことがあるということを答えているところを見ると、ほかにもあっても不思議ではない。これは道義観、倫理観の欠如で、憂うべき状況でありますけれども、こういうことがないように、今回の事件というものも今後に生かしていかなきゃいかぬと思います。

 いかにコストを安くしようとも、法律はきちっと守る、基準法は守る、安全は守るというような道義的、倫理的使命というのはしっかり自覚してもらわなきゃ、今後また起こりかねない問題でありますので、それぞれの御指摘も踏まえて、再発防止策、しっかりと検討しなきゃいかぬと思っております。

○穀田委員 私が提起しているのは、単なる道義観だけでは済まないという問題を言っているんですね。

 この雑誌の中には「やむなく屈する設計者も」と書いていますよ。たくさんいるという、ある意味ではこれは随分広範にあるという問題。問題は、そこでコスト削減という圧力が加わっていることが問題なんですね。

 そのときに、多くの国民は、今総理もお話あったように、これだけじゃないという可能性があると。要するに、姉歯氏だけと違うんじゃないか、もしかしたら自分のマンションや自分のところもという不安を抱くわけですね。そういうときに、なぜこういうことが起きているのか、道義で済むのかという問題なんですよ。

 私は、安全性が二の次になっている風潮が出てきているときに、政府は一体何をしてきたのかということを少しただしたいと思うんです。

 九四年、九五年ごろから、アメリカや日本の財界から規制緩和の要望が強められています。それにこたえる形で、政府は九六年三月、住宅コスト低減のための緊急重点計画という規制緩和策を発表しました。そこでは、建築基準のあり方を根本的に変更する建築規制体系の性能規定化などの見直し、そして海外からのプレハブ住宅とか建材の輸入を促進することによって住宅建設のコスト削減を進めるという計画だったんです。

 まさに政府の方針として、今大問題になっている根幹の一つであるコスト削減競争をあおったんじゃないのかということはどうですか。

○小泉内閣総理大臣 コスト削減の努力はこれからも私は続けていかなきゃならないと思っています。コスト削減しなきゃならないから法律違反してもやむを得ない、これがいけないんであって、法律なり基準を守っていかにコスト削減するかというのは、今後も私は必要だと思っております。

○穀田委員 コスト削減一般論と法律一般論を言っているんじゃないんですよ。そういうぎりぎりのところまで来ることによって、次はそっちへ落ちるという土壌をつくったということを私は言っているんです。安全をないがしろにしていくということは、行き過ぎたコスト削減、これにつながるんですね。

 さきにも紹介しましたけれども、実は、この日経アーキテクチュアというのは二〇〇〇年に特集していまして、九八年の建築基準法の改正について特集していまして、法律が変わったことによってこんなことができるということを言っているんですよ。「鉄筋コンクリート造りでおよそ十階建て以上の高層建築物をつくる場合には、工夫しだいで、部材をスリムにできる、躯体量を減らして建設費も安くできるかも知れない」と言っているんです。まさに今問題になっている九八年の法改正で、コストを削減しやすくする仕組みをつくったということになるんですね。今回の偽装事件で総研や木村建設などが鉄筋量を減らせというふうにして推し進めていたこととぴったり符合するじゃありませんか。

 二つ目の問題に行きましょう。安全をチェックすべき建築検査機関を民間に丸投げした問題についてです。

 今回の事件ではっきりしたのが、建築確認検査が、早く、甘いという点なんです。姉歯建築士の偽装は、民間検査機関ができた九九年以降に本格化しています。自治体の見逃しもあります。民間検査機関の甘さを利用したことについては間違いありません。

 姉歯氏はどう言っているか。検査が通りやすい、見ていないのではないかとさえ、この場で証言しました。そして、総研がホテル開業を指導する際に、オーナーに対して、料金は割り増しだが早く確認がおりるとして、民間検査機関を使うよう指導しているわけです。検査が早ければ、そして早くおりるとすれば、早いほど実は期間が短くなるわけですね、物をつくる期間が。だから、こういう点でもコスト削減できるということでやっているわけなんです。ここまで影響しているんですよ。

 コスト削減競争だけを推し進めれば、一方で安全性が脅かされる。だから、建築物の設計段階での安全を確保する建築確認制度を強める必要があったんです。

 ところが、逆に、建築確認をも民間開放して競争を導入した。首相が言うところの、官から民へ、さらには、競争があればうまくいくとの路線が生み出したあだ花じゃないか。まさにこの事態というのは、安全規制が緩められた結果と違うかということについて、どうですか。

○小泉内閣総理大臣 それはなかなか私は同意できるものではありません。競争によるコスト削減というのは、これからも私は必要だと思っています。競争なくしてコスト削減ないと思うんですね。

 しかし、安全第一なんです。どこの民間の工事現場に行っても安全第一。これは、安全第一という標語をきちんとみんなに見えるように掲げている限りは、民間だろうが公務員であろうが、必ず守ってもらわなきゃならない。

 競争がなかったらコスト削減ないですよ。健全な競争をして、いかにコストを安くして多くの国民に住宅なりいろいろな施設をつくってもらうか。これは競争がなかったらできません。競争があるから安全はどうでもいいんだという、そういう、一気にこれを結びつけるというのは、ちょっとおかしいんじゃないでしょうか。

○穀田委員 私が結びつけているんじゃないんですよ。やっている方がやっていると言っているんです。

 私は、総理と、JRの問題についてもやりましたね。JRだって安全が前提にあるとおっしゃいます。でも、実はそうじゃなくて、稼ぐが第一だったということを覚えておいででしょう。そして、あのときに、安全という項の中には何が書いてあったかというと、安全の義務を遵守するというようなことを詳しく書いているんじゃなくて、コスト削減と書いてあったという話もしましたよね。覚えておいでだと思うんです、私と総理がやり合ったんだから。

 今度の問題はそこなんです。安全を無視した形でコスト削減が強まる。そして、姉歯さんだけじゃなくて、法令まで破ってでもやれという話が出ているということを私はお話ししたんですよ。そこまで安全を無視したコスト競争がやられている、そういう実態がある。片や、それを検査する側は、早いということで押し通す嫌いがある。ここの危険性を指摘しているんです、二つの面から。

 私が言っているんじゃないんです。まさに今の日本の現実の中に、規制緩和、官から民へという話の中でこの事態が進んでいるということを告発しているんですよ。

 最後に一言言いましょう。民間の最大手の検査機関の日本ERI社長は衆議院国土交通委員会における参考人質疑でどう言ったか。検査を厳しくすると、顧客が別の会社、別の機関に行ってしまうというふうに私に答弁したんですよ。安全を検査すべき機関が、検査の時間が早いだとか検査の内容が甘いとかいうことを競って、どうして安全が担保できるかということなんですよ。そこを私は言っているんです。

 まして、ゼネコンや住宅メーカーが出資して民間検査機関をつくって、自分の物件を自分の手で検査する事態が生まれているんですよ。自分のところの言いなりの機関をつくっただけじゃないかということになるじゃありませんか。私は、そういう問題をすべて指摘して言っているわけです。

 だから、競争原理を働かせるだけでは安全は二の次に追いやられる。安全を確保するには行政のチェック体制の強化こそ必要だ。今お話があったように、規制緩和の万能論に基づいて、民間企業が競争すればよくなるというような話じゃない。競争原理が働けばすべてうまくいくとして、建物だとか安全まで、もうけ第一の世界に落としたんじゃだめなんだということを私は指摘しているわけです。

 したがって、最終的には、こういった安全という問題について言うならば、国なり公が責任を持つということに転換すべきだということを述べて、質問を終わります。

○大島委員長 これにて穀田君の質疑は終了いたしました。