国会会議録

【第164通常国会】

衆議院・国土交通委員会
(2006年6月7日)

 海洋汚染等・海上災害防止法改正法案の質疑。
 質疑に先立って、エレベーター死亡事故の問題を取り上げた。港区のマンションのエレーベーター事故で亡くなられた市川大輔さんとご家族に哀悼の意を表し、原因究明と安全対策の強化を「国土交通省として、緊急調査・点検をすべし」と提起した。

○林委員長 穀田恵二君。

○穀田委員 エレベーターで死亡事故が起きました。亡くなられた市川大輔さんの御家族に哀悼の意を表明したいと思います。

 エレベーター事故で、日常使う製品の安全性の問題が浮き彫りになりました。原因究明が一刻も早く求められます。メーカーや保守会社は、安全対策に落ち度がないか再確認し、利用者の不安を払拭する必要があります。

 国交省の責任もあります。国交省は、建築基準法第三十四条、それから建築基準法施行令の百二十九条の三以降、そして安全装置の義務づけは同十「エレベーターの安全装置」というところにありまして、その三項一号に、要するに「すべての出入口の戸が閉じていなければ、かごを昇降させることができない装置」ということまで義務づけています。したがって、責任も重大だと思います。

 私は、この一点だけ、海洋汚染の防止の前に聞きたい。緊急調査、点検を行うべきと考えるが、大臣の認識はいかがかということであります。

○北側国務大臣 まず原因究明をしっかり図ることが大切であると思っております。

 今警察も調査に入っておりますが、国土交通省といたしましても、港区とよく連携をとって事故原因を早期に確定すること、それが非常に大事であると思っておりまして、しっかりその調査を進めさせていただきたいと思っております。

 それとともに、このエレベーターはシンドラーエレベータ株式会社というところがつくったエレベーターでございまして、この港区での本当に痛ましい事故だけではなくて、ほかのところでもふぐあいが生じているような報道もあるところでございまして、詳細な調査をさらにしているところでございます。

 また、現在、日本エレベータ協会を通じまして、シンドラーエレベータ株式会社に対しまして、事故機と同型のドア安全装置、制御装置を有するエレベーターの物件リストの作成を要請しているところでございまして、事故原因の解明作業と並行いたしまして、このリストが提出され次第、特定行政庁を通じて運行状況等の調査を実施させていただきたいと考えております。

○穀田委員 そこはよくやっていただきたいと思うんです。

 私、今お聞きして、シンドラー社のエレベーターというのは、日本では確かに一千台ぐらいということで、割と小さいというふうに見えますけれども、世界では第二位なんだそうですね。それで、きのうの報道でもありますように、東京工業大学でも起きているということがあります。

 あわせて、私は、なぜこれをこの際と言っているかというと、この間、昨年の七月でしたか、地震の影響で、首都圏で五万台のエレベーターが停止しています。これも受けてでしょうけれども、国土交通省の諮問機関、社会資本整備審議会建築物等事故・災害対策部会は「エレベーターの地震防災対策の推進について」という報告を出しているわけなんですね。そういうことがある。

 もう一つ、今度の問題で私が大事だなと思ったのは、行政の責任が直接問われていると思うんです。といいますのは、マンションは港区が所有し同区住宅公社が管理しているものです。だから、家主は行政なんですよね。

 それで、エレベーターのふぐあいについて、実質上の家主である公社も、それから区も聞いていた。報道によれば、公社は、ふぐあいが頻発しているという認識はあったが、業者の修理で直ったと考えていた、安易だったかもしれないと述べたとされています。

 こうなりますと、私は、安全第一という態度で本当に臨んでいるのかということについて警鐘を鳴らさなくちゃならぬのじゃないかと。その意味で、私は、緊急調査、点検、少なくとも、今お話があったシンドラー製品は当然のこととして、公共的な建物の安全性などについてもチェックするのは当然じゃないかと思っています。

 そこで次に、肝心の問題に入ります。

 海洋汚染防止法案ですが、この法案は、これまで重油等の蒸発しにくい油に限られていた排出防除措置を、キシレンなどの有害液体物質や揮発性の高い油について船舶所有者等に義務づけるということになって、海洋汚染、海上災害の防止対策を強化しようとするもので、私は当然だと思うんです。

 ただ、ここで大もとについて議論しておきたい。私は、率直に言って、これはちょっと遅過ぎやしないかと思っているんです。もっと早く整備されるべきではないかと考えています。なぜなら、先ほど来多くの議員の質疑の中で明らかになっているように、日本は海洋国なんですよね。ですから、他の国に先んじて積極的に海洋汚染防止などに取り組み、イニシアチブを発揮していくべき立場にあるんじゃないかと考えているからです。

 いただいた資料の中で、HNS汚染事故への準備及び対応に関する調査研究委員会の報告がありました。これは海上保安庁がその概要を出していますが、それを読みますと、背景では、大規模油排出事故による海洋環境への影響を最小限に抑えることを目的としてOPRC条約が一九九〇年に採択されたと。この条約がこれまでの重油等の蒸発しにくい油を対象にしたものであることは御承知のとおりです。ところが、このとき既に、油以外のHNSも汚染対象物質の範囲に加えることについて検討すべしという附帯決議がついていました。そして、以降検討されて、二〇〇〇年三月にOPRC―HNS議定書が採択された、こういう経過です。そして、五年経過したことしにやっと国内法が整備されるという経過であると思うんですが、この点について間違いありませんね。簡単に、それだけ。

○竹歳政府参考人 以上の経緯については、今御指摘のとおりでございます。

○穀田委員 つまり、九〇年当初から問題だという認識はあったわけなんですね。確かに、国際法上の手続だとか整備する上でのさまざまな越えなければならない問題もあったでしょう。なぜもっと早くできないかということを、どういうイニシアチブを発揮したのか。私は、その意味では各国の後を追いかけているというような印象があります。

 日本海難防止協会に意見を聞きました。そうしますと、HNS追加の法改正を急ぎ、対策を強化してほしい、有害、危険なケミカルメタル類は二万種類、日本経済が必要とするケミカルメタル類が大量に海上輸送されており、危険な状態が広がっている、このHNSというのは人命に被害をもたらすとともに海洋を汚染して生態系を破壊する危険物質だ、その上、ケミカルタンカーは世界で二千隻のうち日本が七から八百隻、その九〇%が内航タンカーだ、イルカの漂着や知床の鳥の漂着などの原因にHNSが指摘されている、この現状から見て対策は緊急を要すると考える、こういうふうに述べていました。

 こういう状態になる前に、なぜ国内独自に対策を打たなかったのか、あるいは各国に働きかけるイニシアチブをとらなかったのか、この点について状況をお聞きしたいと思います。

○竹歳政府参考人 我が国の海洋汚染及び海上災害の防止対策につきましては、国際的な規則及び基準に基づいて実施するということがまず基本でございます。

 今先生御指摘のように、一九九〇年にOPRC条約が採択された際に、油以外の危険物質及び有害物質に拡大するということで附帯決議がなされ、その後、国際海事機関で十年間かけて有害物質の範囲とか規制対象となる取扱施設の範囲等について関係各国間の調整が行われて、二〇〇〇年にこのOPRC―HNS議定書が採択された、こういうことになって、そこで十年間国際的に議論がされてきたということでございます。

 この問題につきましては、いずれにしろ、それぞれの危険物質及び有害物質についての防除の方法について、きちっとした具体的な方法を示さないと船舶所有者等に防除等の義務化ができないわけでございますので、そういうことが可能になったので提案させていただいたということでございます。

 なお、国際的な状況でございますけれども、平成十八年五月末現在ですと、十四カ国が既にこれを締結しておりまして、我が国は十五番目を目指しているということになるわけでございますが、英国、米国、フランス、ドイツなどの先進国や中国、韓国などの近隣諸国はまだ締結しておりませんので、そういう意味でも、国際的に必ずしもおくれているということにはならないと考えております。

○穀田委員 経過は、さっき言ったわけだから、いいんですよ。

 簡単に言えば、防除のそういう知見が深化した、時間がかかったということはあるんですね。それはあると思います。ただ、事は地球環境それから海洋環境にかかわることだから、そういう意味での認識を深めて努力すべきであったと思うんですね。

 今ありましたけれども、大体、十四カ国まで締結をして、あと、準備している日本やドイツが加わるということで見通しが立っているということですよね。

 そこで、今答弁でもありましたが、アメリカや英国などはこの中に入っていないわけですね。その理由は何なんですか。

○石川政府参考人 アメリカにつきまして御報告させていただきたいと思います。

 アメリカも、現在、有害物質あるいは有害物質の防除体制について、油と同様に新たに制度をつくるということを、導入を検討しているところでございまして、その案については、既にアメリカ国内においてパブリックコメントも実施をされ、関係事業者等との調整も、アメリカの国内でございますが、終わっているということでございますけれども、アメリカの議会でまだ法制化はされていないというふうになっております。

 ただ、アメリカにつきましては、既に危険物質及び有害物質を対象とした国家的な緊急時計画というものは策定をされているということでございます。

 繰り返しになりますけれども、アメリカはまだ議会において法定化されていないということでございます。

○穀田委員 それはわかっているんですよ。だから、法定化されていないから批准されていない、その二つの関係があるということも、それは我々はつかんでいます。

 問題は、いつでもそうなんですよね。国内的な体制を整備することとのかかわりで、アメリカは、事環境やこういう問題にかかわると、必ず独自の道を歩むという傾向がこの間あるということを見ておかないとあかんのじゃないのか。だから、理由が何なのか。法体系の整備との関係でおくれている、それは一つの、法律上の体系との関係で問題になっているんですよ。内的理由はないのかということを聞いているんですよ。それはどうですか。

 要するに、例えば地球温暖化防止対策においても、最大の工業国であるアメリカの姿勢が問われたわけですよね。こういった形と同じような、独自性というのか彼らのわがままというか、そういうのはあるのか。そういう内容上の話を聞いているんですよ。

○石川政府参考人 アメリカの詳しい状況はわかりませんけれども、ただ、聞くところによると、さっき申し上げましたように、アメリカの議会の中で、この辺の関係の法令をまさにどういうふうに扱うかということについての中でおくれているというふうに伺っております。

○穀田委員 では、最後に一言だけ言いますけれども、大臣、一律に何も環境問題についてアメリカが悪いと言っているわけじゃないんですよね。そういうふうに思っているわけじゃないんだけれども、この間、こういう問題というのは結構独自性という名目でいろいろやっているから、やはり海洋国家としての日本が、もっとイニシアチブをとって、こういう問題についてはさっさと入れと言うぐらいのことをやるべきだというふうに思っていますので、よろしく言っておきたいと思います。

 終わります。