国会会議録

【第169通常国会】

衆議院・国土交通委員会
(2008年5月21日)

衆議院国土交通委員会において、海上運送法・ 船員法改定案の質疑を行なった。

○竹本委員長 次に、穀田恵二君。

○穀田委員 今、「蟹工船」という戦前の小説が多くの若者に読まれ、脚光を浴びています。戦前の日本共産党に入党し、二十九歳の若さで特高に逮捕、虐殺された、プロレタリア文学を代表する作家、小林多喜二が書いた作品です。オホーツク海で操業する蟹工船で、リンチなど過酷な労働を強いられた労働者たちが団結し、闘争に立ち上がる姿をリアルに描いているものです。

 こういう小説が若者の共感を呼んでいます。新聞によりますと、「現代の「ワーキングプア」にも重なる過酷な労働環境」という意見や、「私たちの兄弟が、ここにいる」、さらには「「蟹工船」を読め。それは現代だ」などと、現在の労働状況と重ねる声が多く、朝日、読売、毎日、産経、日経と、すべての新聞がこの問題を取り上げて報道しているほどであります。

 大臣は、率直に言って、読んだことがあると思うんですけれども、戦前の小説が現代だと若者が共感し、脚光を浴びていることを御存じだろうか、そして、今なぜ若者がこういった問題に共感すると思うのか、聞きたいと思います。

○冬柴国務大臣 私が購読しているのは読売新聞でございまして、たしか読売ではなかったかな、そうですね。「「蟹工船」悲しき再脚光」というところで心を打たれたのは、「私の兄弟たちがここにいるではないかと錯覚するほどに親しみ深い」という、読者の感想がその中に書かれているところには心を打たれました。

 これは、特に、いつもワーキングプアという言葉で共産党がおっしゃっておられる、最近の若い人たちの低所得、そして結婚もできない、こういうものについて、そういう境遇にある人たちが、あるいはそういうものに問題意識を持っている人がもう一度読んでみようという小説だろう、私はそう思います。

 私は、このワーキングプアというような言葉が徘回するような世の中は一日も早く何とかしなきゃならない、このように思うことは穀田さんと一緒だと思っております。

○穀田委員 なぜこの「蟹工船」の話をしたか。これは、船乗りと事業者である資本家の関係が極めてわかりやすいからなんですね。仲介業者にあっせんされた農民や炭鉱労働者、学生らが、これをちょっと持ってきたんですけれども、最初の出だしは、「おい、地獄さ行ぐんだで!」行くというところを、方言でしょうから、えぐんだで、こういうわけですわな。過酷なそういう労働を強いられる背景には、国策の名で海軍の保護を受け、暴利をむさぼる大手資本の横暴があったことも描かれています。

 今回の法案のテーマである、日本籍船と日本人船員が激減していった背景、要因について、大手資本家である海運会社と政府がどのような役割を果たしてきたのか、検証する必要があると私は考えたからであります。

 そこで、先ほど来議論になってきましたけれども、日本籍船とそれから日本人船員が激減したのはなぜか、原因はどこにあると認識しているかということでいいますと、先ほど来、簡単に言うと、一九八五年のプラザ合意を契機とした急速な円高などの進展によりコスト競争力が失われたことだというのが、その前が長いさかい、縮めて言うと大体そういうことですわな。私は、果たしてそうだろうかと思うんですね。

 先ほどもありましたように、円高や、それだけが原因だったら、それは為替の変動の中において、さまざまな各国だってそういうことに見舞われることがあり得る。問題は、籍船も船員とも減少傾向は九〇年代以降も続いているんですね。したがって、政府は、それに対してどういう対策をとってきたのかということが問われているんじゃないでしょうか。そこを言っていただけますか、大臣。

○春成政府参考人 九〇年代において、政府において、日本籍船、日本人船員の減少についてどのような手を打ってきたのかというお尋ねでございますけれども、私どもがやった制度の一つが国際船舶制度でございます。これは、いわゆる日本籍船のうち液化天然ガスの運搬船といった特に重要なものについて、登録免許税あるいは固定資産税の軽減措置を図るという形で、いわばそうした重要な日本籍船を確保していくという施策をとったわけでございます。

 さらには、同じく九〇年代の中では、先ほど申し上げたかもしれませんけれども、いわゆる機関部についての省力化を図るといった近代化船への取り組み、あるいは、同じ職場に外国の方と日本人とが混乗する形をとった混乗船といった形でのコスト削減策、それもあわせてとってきたということでございますが、特に、今申し上げた国際船舶制度、これは日本船舶の減少について一定の歯どめはかかったものの、依然としてその後も減少が続いてきたということは事実でございます。

 そういった背景には、やはり世界単一市場という中で、日本の外航海運企業も生き残りのための努力をしてきた、必死の努力をした結果という部分もあろうかと思っております。

○穀田委員 いただいた資料を見ましても、一九八五年、日本籍船は千二十八隻あったわけですよね。それ以後ずっと減っているんですよね。船員だって、当時三万人いたわけですよ。そして、今や二千六百五十ですから。しかも、それらの政策をやったからといって、歯どめはかからなかった。

 しかも、今お話があったように、コスト競争力を強化するために、結局のところ、大手海運会社などはコストの安い便宜置籍船をふやすなど、日本船舶の海外流出を進行させたんですよ。そして、日本人船員を確かに、今答弁では混乗化と言っているけれども、結局、日本人船員を賃金の安い外国人船員に切りかえていった。だから、まさにそこに原因と責任があることは明確じゃないのかと思うんです、私は。

 つまり、結局のところ、競争力をそこで強めて乗り越えるということが中心で、日本籍船が減ることだとか、日本人の船員が減ることなどは、簡単に言うと意識していなかったというのが、このプラザ合意以後の実態であるということの証明なんですね、この事実は。政府は、今答弁であったように、日本商船隊のコスト競争力を向上させるため規制緩和だとかの支援をしてきたけれども、結局、日本籍船や日本人船員をふやすための対策は具体的にはとってこなかったということなんですよ。

 今度出てきているトン数標準税制というのは、国際競争力の均衡化というけれども、要するに、船、船員をふやすために減税措置を講じようということで、今もうかっている大企業に対しては優遇税制を図るということなんですね。これまでコスト競争力強化のためと称して事業者をさんざん支援し、事実上、日本籍船や船員を減らしたことに対して応援してきたわけで、今度は、そのことを反省し、原因や責任を明確にするということから始まるならわかるんだが、とにかくふやせば減税で支援するということは手前勝手過ぎやしないかと私は考えています。

 確かに、国際的には共通の手法で、選択肢としてはあり得ることかもしれない。しかし、この間の極端な船と船員の減をもたらしたことの総括抜きに、つまり、企業の社会的責任は果たせるのかということを厳しく問わなければならないのと違うかと思います。しかも、最近、大手三社は空前の大もうけを上げていて、減税しなくたって日本籍船それから日本人船員をふやすことで社会的責任が果たせると私は考えます。したがって、まず海運事業者の姿勢こそ正すべきではないのか。この点は大臣いかがですか。

○冬柴国務大臣 私は、プラザ合意の前のスミソニアンまでさかのぼるんですけれども、これはやはり三百六十円が二百七十円になり、七十九円になれば、どんな競争をしたって、それが共通の海という、七つの海が一つの市場であれば、これは本当に手も足ももがれたという形になると思います。

 中核六社と言われた海運事業者も、その後、三社にまで統合されざるを得なかったというのも、そういう物すごく苦しい中からやっているわけでありまして、外国人船員を好んで雇っているわけではないと思いますよ。しかしながら、人件費を比べたら、もうとてもじゃないけれどもその中ではやっていけないというところから、外国人の船員あるいは外国籍船、固定資産税がかからない、そういうようなことでここまで来たんだろうと思います。

 私は、その結果が、非常に日本は危ういという感じがしたわけです。そういうことから、私は就任したすぐから、何としてもトン数標準税制をこの国は入れなければならないということを強く持ったわけで、それは競争においてイーブン、ほかの海運国家と同じ条件にしてあげないと競争できない、そういうところから今回のものでありまして、確かにこれを導入するのがおくれたことについてはおわびしなきゃならないと思いますよ。しかしながら、遅まきながらも、今後、これで頑張っていこうということでございますので、御理解をいただきたいというふうに思います。

○穀田委員 余り理解できぬと。

 要するに、プラザ合意が間違っていたということはお認めになるということになっちゃうんですよね、そうすると。私どもはおかしいと一貫して言ってきたわけですけれども。今ごろになって言ってもらっても困るわけだけれども。

 人件費の問題も出ました。では、船員の労働環境の改善について聞きたいと思うんです。日本人船員をふやすには、まずやはり私は海運会社のコスト削減競争というものだとか、リストラをやめさせることは大事じゃないかなと思います。そこで、労働条件、環境の改善が必要です。その中で、私、二つ挙げたいと思うんです。

 そうだったら、〇四年に船員法改定によって解禁された船員派遣事業をやめることが先決だ。それから二つ目に、船員を組織する全日本海員組合などが求めておられます、ドイツなどで導入されている船員税制や社会保険制度への助成策など、政府がこういうところに直接支援する取り組みこそ重要だと思いますが、簡潔にお答えください。

○冬柴国務大臣 簡潔に申し上げれば、私はそのとおりだと思います。

○穀田委員 そのとおりだということは、すぐやっていただけるというための努力を開始してもらって、すぐは無理ですから、それは、もちろん。だけれども、我々が提起している方向性については当然だということだと思うんですね。

 最後に、航海命令について聞きたいと思います。

 国際海上輸送もその対象とする理由は何か。それとあわせて、トン数標準税制を創設することと関係があるのかということ、この二つだけ。

○冬柴国務大臣 後者のことを言えば、関係はありません。同じ法律ですけれども、思想としては別でございます。

 それから、今まで内航海運だけであったものを外航まで広げたのは何かというのは、九九・七%の日本の貨物というものが外航海運によって運ばれている。こういうものが、日本で大震災、あるいは外国で大震災、あるいは津波、あるいはサイクロン、こういうようなものが起こったときに円滑に運べないというときに、やはり日本籍船であり、日本人船員がこれをやっていただくということを、外航海運にこそ求めなければ日本人の生活は維持できなくなると思いますので、そういう趣旨でございます。

○穀田委員 この法律の一つの前提となった考え方の中で、交通政策審議会海事分科会の答申があります。その中には、やはりこの問題について、政府の管轄権の確立、そして非常時でも安定的な輸送の確保。したがって、同時に、考え方として、要するにそういうための社会的貢献をしてもらうから減税だ、こう言っているんですね。だから、全く関連がないということはないんですよ。その二つがセットだというところが、この「安定的な国際海上輸送の確保のための海事政策のあり方について」という答申の中にまさにその哲学があらわれていることを見なければなりません。

 ですから、外航の航海命令というのは、いわばトン数標準税制創設の前提だ、一定の話し合い、そういうことなんだということがこの考え方なんですよ。いいか悪いかは別として。航海命令の発動をする場合には、確かに、答弁でもありましたし、一連の考え方であるように、有事を想定したものは含まれないとされています。でも、法律や解説の内容を見ますと、有事以外の非常時が想定されている。その非常時には、テロ、政変等の治安悪化も含まれています。したがって、海外で紛争が起こっている地域も対象になり得るわけだから、幾ら安全を確保するといっても、危険にさらされることもあり得るわけです。

 それで、航海命令は船舶運航事業者への命令ですが、船舶を運航するのは船員であり労働者です。船員労働者が嫌だと言っても、会社が職務命令を下せば、その意思に反して海外の危険地域へ運航、派遣を強制されることになります。

 となりますと、私は、トン数標準税制ということとあわせてやるということになりますと、そのことを条件にして船員労働者を危険にさらすことになりかねないんじゃないかという点を危惧するわけです。その点は大臣いかがですか。

○冬柴国務大臣 私の思想としては、別問題であると。私は、トン数標準税制は、国際競争にさらされている中で、海運業者がイーブンの立場で競争していただくということからこれを決断しているわけでありまして、それを入れたからこれをやれとか、あるいは船員を危険にさらしてもいいとか、そういう趣旨は全くありません。

 しかしながら、穀田さん、日本国民が食べ物を失ったときにだれかが運ばなきゃならないんですよ。外国がそれを受けてくれないとき、だれが運ぶのか。そういう極限状態を考えれば、本当に、今回の四川省の大震災でも、国際緊急援助隊がみずからの命を、難しい中でも行ってくれていますよ。私は、そういうふうに、だれかがやらなきゃならない、それは船で運ばなきゃならないわけですから、船に従事する海の男がやっていただきたい、こういう思いですよ。私は、それは協力いただけると思います。そのように思います。

○穀田委員 大臣の哲学は違うと言っていたとしても、法律のつくる過程がそうなんだということを私は言っているんですよ。

 もともと、民間海運会社が国家に強制徴用されて軍人よりも船員の方が高い死亡率だった戦前の歴史を考えれば、私は、国家が強制をする航海命令は避けるべきものだと。

 しかも、今大臣は答弁したけれども、だれかが運ばなくちゃならぬ、そういう問題について言うならば、それは命令ではなく自発的、自主的に、何度もやった例はあるんですよね。湾岸戦争のときだって運んでいるわけですよ。そういう例は承知しているし、そういうことについて殊さら、現在航海命令の規定のある国内輸送だって一度も発令したことはないんですよ。そういう問題と、今までの歴史的事実と経過、そういうことを考えたら、事業者の優遇税制と引きかえに導入するという安易なものであってはならぬということを私は言いたいわけであります。

 時間ですので、終わります。

○竹本委員長 これにて本案に対する質疑は終局いたしました。

    ―――――――――――――

○竹本委員長 これより討論に入ります。

 討論の申し出がありますので、これを許します。穀田恵二君。

○穀田委員 外航船舶運航における近年の日本籍船、日本人船員の激減は深刻であり、政府として日本籍船、日本人船員をふやす対策を講じることは当然です。

 しかし、そのためには、日本籍船や日本人船員がここまで激減するに至った原因と責任を明確にする必要があります。

 この間、日本の海運事業者は、海運事業のコスト削減競争の激化を口実にして、税金の安い外国に所有船の国籍を置く便宜置籍船化を進め、低賃金の外国人船員の雇用を進めてきました。目先の利益追求に走り、社会的責任を放棄して日本籍船や日本人船員のリストラを推し進めたことが今日の深刻な事態を招いたのであり、大手海運事業者の責任は重大です。

 同時に、国際競争力強化の名で、海運事業の規制緩和を促進し、大手事業者を優遇してきた政府の責任も免れません。こうした海運行政のあり方を根本から見直すことが求められているのであります。

 次に、国際海上輸送に導入する航海命令は、非常時に船と船員を国家が強制的に提供させる命令です。

 航海命令が発動される非常時には、テロ、政変等の治安悪化を含むとしており、世界じゅうの紛争地域が対象となり得るのであります。輸送時に危険にさらされる可能性は否定できません。船舶運航事業者への命令は、実際には、運航に従事する船員労働者がその意思に反して海外の危険地域への派遣を強制されることになるものであります。

 戦前、民間海運会社が国家に強制徴用され、軍人よりも船員の方が高い死亡率だったという歴史があります。また戦後も、イラン・イラク戦争や湾岸戦争などの最中に民間タンカーが被弾した痛ましい事件を想起すべきであります。

 しかも、今回の航海命令が、防衛力強化と並ぶ国家安全保障の観点からの非常時の船舶確保策とされていることも看過できません。既にこの間、周辺事態法、国民保護法によって、いわゆる有事における民間船舶の国家動員体制がつくられてきました。今回の航海命令規定は、国家による民間船舶の強制動員を世界じゅうの非常時の事態に広げるものであり、到底認めることはできません。

 以上、指摘して、反対討論を終わります。