国会会議録

【第171通常国会】

衆議院・予算委員会
(2009年5月12日)


○衛藤委員長 次に、穀田恵二君。

○穀田委員 日本共産党の穀田恵二です。

 きょうは端的に、生存権の重要な要素であり、生活を営む上で基本的な要件である住まいと社会的弱者に関連して、何点か総理にただします。

 政府の経済危機対策では、今回の経済危機が非正規労働者等の社会的弱者にしわ寄せされる形であらわれていると述べています。政府が言うところの社会的弱者たる非正規労働者は、職を失えば住まいを失うという事態に直面しました。若い人ばかりではありません。お年寄りも低所得者を中心に、行き場がない、住まいがないという大問題が生じています。

 総理は、ハウジングプアという言葉、概念を御存じでありましょうか。

○麻生内閣総理大臣 知っているかという単純な御質問。知っています。

○穀田委員 これは新しい言葉でありまして、私は、こういう事態がどこまで広がっているのか、そして何ゆえにこのような言葉が生まれたのかということについて分析し、対処するのが今の国民の住まいの状況からして極めて大切だと考えています。先ほど述べた政府の経済危機対策の中で触れていますが、私はその前提条件があると思うんです。

 昨年の経済危機以前から、政府の社会経済政策、経済構造のゆがみによって、国民の生活はこれまでと違う深刻な状況に置かれていたというのがあるんだと思うんです。実は御承知かと思うんです、大企業は昨年までは好景気を謳歌して、史上最高の空前の大もうけをしてまいりました。一方、中小企業や労働者、そして多くの国民にはその恩恵は回りませんでした。貧困と格差が拡大していた。働けど暮らしは楽にならないワーキングプア、年収二百万円以下の方々が一千万人を超えるまでになっていたわけであります。

 そこに今回の経済危機が襲いかかった。非正規、派遣切りが横行し、職を失った途端に住居も失うなど、先ほど述べたハウジングプアという言葉も使われるようになったわけであります。まさに生存権が奪われるという事態が一層進行したのが今日の現状ではないかと考えます。

 したがって、今政治に必要なのは、生存権を脅かされている事態を解消する対策が求められているのではないかと考えますが、総理のお考えをお聞きしたいと思います。

    〔委員長退席、鈴木(恒)委員長代理着席〕

○麻生内閣総理大臣 基本的には、今、国民の生活の基本ともいうべき住居、住まいというものに関して、これを確保するというのは、その質も問われることながら、今なくなってしまうというような形は、これは重要な課題なんだと十分に私自身も認識をいたしております。

 したがって、今回、従来になく急激に起きたこともありますが、また、企業もこれだけ一斉に世界じゅう同時に不況というのを過去六十何年間やったこともありませんので、企業側もかなり焦ったことも事実として皆さん認めておられます。いずれにしても、少なくとも企業は、自社のコストの削減のために、いわゆる非正規労働者と言われる、雇いとかいろいろな表現がありますが、そういった非正規労働者に対して極めて厳しい態度。

 従来は、昔から派遣元というのがそういうのをきちんと受けてやっていたものだったんです。炭鉱会社は、皆、派遣元から派遣されてきた人がいっぱいおりましたから、我々はよくそういった世界を知っている方だと思いますが、そういうところは、派遣元がきちんと次の仕事までずっと面倒を見ていたものだったんです。

 今回は、その派遣元が基盤として極めて弱かったということもあって、派遣元も極めてそこらのところは対応としてはということだったと思いますので、昨年末から雇用促進住宅ということで、これは舛添厚生労働大臣のところで公営住宅をいわゆる提供させていただいて、今、取り壊すことになっていた、住宅公団が持っておりましたものを貸し付けたり、また住宅資金というものの貸し付けを急にやらせていただき、そして今回の補正予算におきましても、いわゆる再就職というのができるようにするために、緊急人材育成・就職支援基金、これは仮称ですけれども、こういったものをつくって、少なくとも、七千億円の金を積んで、今の時代なかなか、新しい仕事につくに当たっても職業訓練をある程度しておかないとできない、しかもその職業訓練にはある程度時間がかかりますので、その間の経費もというようなところまでは一応してあるというように、それなりの努力はしておるというように御理解をいただければ幸いであります。

    〔鈴木(恒)委員長代理退席、委員長着席〕

○穀田委員 それは、現実を余り見ていない。私は、施策のいろいろなものを述べても、どこが責任を持っているのかということについて言っても、それでは行き場がないという現実を見ているとは思えないんですね。だから、そういう認識がないからこそ、結局、一年限りのばらまきになってきたりするというのが現実だと思うんです。

 生存権というのは、御承知のとおり、すべて国民は健康で文化的な生活を営む権利を有する、政府はそれを保障する義務があります。ことしの正月の派遣村の取り組みで、生存権を脅かす事態があるというのを多くの方々が認識しました。

 それだけじゃないんですね。住まいに関連して、もう一つ痛ましい象徴的な出来事が、例の、三月に起こった老人施設「たまゆら」の火災でありました。亡くなられた十名の方々に改めて私は哀悼の意を表したいと思うんですが、劣悪な施設で、都内に施設がないからといって他県に生活保護受給者を住まわせていた、これが実態です。

 そこで、厚生労働省に確認するが、「たまゆら」のような無届け施設であったり、民間の賃貸住宅など、法的位置づけのない施設、共同住宅などに生活保護受給者がどれだけいるのかということについて述べていただきたい。

○阿曽沼政府参考人 お答えを申し上げます。

 今御指摘の社会福祉各法に位置づけのない施設あるいは共同住宅に入居している生活保護者についてでございますけれども、本年一月一日現在の状況でございますが、全国的な実態把握を行いましたところ、中間的に集計した時点では、一万四千二百六十八名でございます。

○穀田委員 法的位置づけがないということは、中には劣悪な施設もあると考えられる、それは当然であります。そこに一万四千人以上の方々がいる。

 これは述べられなかったんですけれども、報道によりますと、それぞれの県内では入れないから他の、都道府県外の施設に余儀なくされている方がおられる。これは、数字でいいますと六百十七名、うち東京が五百十七名という現実があります。

 先日、NHKで「追跡!AtoZ 無届け老人ホームの闇」というのが放映されました。そこでは、低所得で介護が必要な高齢者たちを集め、生活保護費や介護保険報酬をねらう貧困ビジネスが拡大していることを報じていました。都内の高齢者の受け皿が不足する中、行き場のない人を劣悪な環境に置いて金銭を搾取しているのだ、こう述べていました。一部屋に七人がタコつぼ状態、食費は一日三百円程度、生活保護費は、入所費や食費だとして全額施設側が管理し、受給者にはほとんど渡らない。取材した記者に入所者が、ここは地獄ですよと痛切な叫びを上げていました。

 住まいがない、行き場がない、そういう方々への行政の対応が不十分なところで、低所得者を食い物にする、いわゆる貧困ビジネスがばっこしている、こういう事態を放置していいのか。そういう点での政治の責任をどう考えるか。端的に総理にお答えいただきたいと思います。

○麻生内閣総理大臣 今御指摘のあった、これは特に大都市部によく言われるところなんです。低所得者で、かつ高齢者が多いんですが、住まいが十分ではないということで、無届けの施設など、今「たまゆら」の例がありました、あれはたしか群馬県だったと記憶しますが、こういったことを余儀なくされているという指摘は私も承知をいたしております。

 こうしたいわゆる基本的な話、住まいというような話になりますと、極めて重要な問題だとも認識をいたしておりますので、先ほど局長の方から申しておりましたが、今回の補正予算におきましても、介護基盤の緊急整備などのための基金というものを二千五百億設けて、介護施設の整備というものを促進するという必要性を考えております。

 加えて、今国会で審議をお願いいたしておりますが、高齢者居住安定確保法に基づいて、住宅行政と福祉行政というものを連携させて、公営住宅の建てかえに合わせた、いわゆるデイサービスセンターの整備などの促進を図りたいとも考えているところでして、いろいろな意味で、これは厚生労働行政だけでなかなかうまくいかないところ、地方行政とあわせていろいろ考えていかなきゃならぬと思っておりますが、いずれにいたしましても、低所得の高齢者の住まいの確保というものは非常に大きな問題だと思っております。

○穀田委員 大きな問題だという認識はいいと思うんです。

 しかし、全国でいいますと、例えば特別養護老人ホームの待機者は三十八万人今いるわけですよ。地方自治体が手を挙げてやると言わなければできないんですよ。そういう現実がある。そういう中で、つまり、そういう行き場がない生活保護受給者や低所得者というのは、結果として無届け施設へ行くしかないという現実があるということなんですね。

 だから、貧困ビジネスということでいいますと、住まいに関連して言えば、単にそういう問題だけじゃなくて、ゼロゼロ物件だとか追い出し屋もあるわけですね。それは御承知かと。追い出し屋は、民間賃貸住宅の入居者が収入の道を断たれて家賃の支払いがおくれたりすると、もう追い出しにかかる。無断で家のかぎを交換したり、法外な違約金を請求したりするということで、賃貸業者だとか管理業者だとか、さらには家賃保証会社の一部に違法な悪質行為がふえているわけですね。こういう貧困ビジネスがはびこる背景が問題だと私は思うんです。

 そこで、今お話あって、先ほど住宅と福祉と言っていましたが、それは一定の改善はされるけれども、では、肝心の低所得者の高齢者はそこに入れるのか。入れないんですよ。政府の特別養護老人ホームの整備が抑制されてきた、そして療養病床廃止で行き場を失っている現実があるんですね。それは社会保障費抑制が原因なんです。

 公営住宅はどうか。それは、政府は新規の供給を抑制してきました。低所得者層がどんどんふえるのに入居ができない。さらには、入居要件を厳しくして入り口を狭くするものだから、結局、追い出したりしてきたじゃないか。こういう方々は一体どこへ行けというのか。人ごとじゃないんですよ。

 要するに、公が打つべき手を打っていないところに貧困ビジネスがはびこるわけです。総理は、そういう意味で、今述べた、例えば特別養護老人ホームを初めとした施設をつくる上での社会保障抑制政策、さらには新規供給を抑制してきた公営住宅に関する施策、そういう抑制政策を反省していますか。

○麻生内閣総理大臣 これは二千二百億円の話に多分直結してくる話じゃなくて……(穀田委員「この間の」と呼ぶ)この間の。

 全体として、今言われるように、低所得の高齢者が急激にこういった形になっていった背景というのは、多分景気の悪化が一番だとは思いますけれども、いずれにしても、今、少子高齢化が進んでいく中にあって、今言われたような問題を、先ほどの一番最初の鈴木恒夫先生の話とも重なりますけれども、きちんとした対応というものを考えていくというのは、今までとは全然違ったジャンルで出てきたのかなという感じは前からありましたので、そういった意味では、この対応は急がせなければならないと思っております。

○穀田委員 こちらは行き場がないと言っているわけですね。こういう人たちをどうするのか。そういう対策がないというところが今度の中身なんですよ。私は、今回の補正予算というのは、社会保障の切り捨て、抑制路線はそのままだ、今回の経済対策、今述べた貧困の拡大に対する対策や低所得者に対する支援が欠如しているということを言いたいと思うんです。

 うちの笠井議員が言いましたけれども、一メートル八千万円もかかるような東京外郭環状道路、高速道路のために、研究開発費だとか、さらに自動車産業、そして電機産業を支援する、エコカーやエコ家電に対しては大盤振る舞いする。だけれども、これは三月九日に日本経団連が要請した中身をそのままやっているという現実なんですね。

 ところが、私は思うんです。この間の「AtoZ」を見て、最後にどう言ったか。それは、「無届け老人ホームの闇」で、こんな国にいつからなったんでしょうねと言っているんですよ。私は、きょうのテーマが今後の日本社会についてだけれども、今日のこういう社会保障抑制路線がどれほど重大な事態を多くの方々にもたらしているかということを深く胸に刻む必要がある、そういう現実をしっかり見て、そういう方々をなくすということ、人間らしく生きることのできる、そういうことがきょうのテーマだと思うんです。

 私は、その意味で、ハウジングプアなどという言葉が死語になる、そういう当たり前の社会をつくるために決意を申し上げて、質問を終わります。

○衛藤委員長 これにて穀田恵二君の質疑は終了いたしました。